びせいぶつけんさトリビア
びせいぶつけんさトリビア No.5
Bartonella henselae は猫にひっかかれたり、咬まれたりすることでヒトが感染するいわゆる猫ひっかき病(cat scrach disease: CSD)の起因菌です。特に子猫にひっかかれての感染が多いようです。皮膚の傷から3-10日で丘疹や化膿、2週間後からリンパ節が腫れて痛むことがあり、さらに発熱・頭痛などもみられることがあります。まれな合併症としては髄膜炎、脳症、肝膿瘍、脾膿瘍などがあり、免疫抑制状態の人では重症化しやすいといわれています。CSDの発生は秋から冬にかけて多くなることが知られており、これは夏に増えたネコノミによってBartonella に感染した猫が増え、秋冬に家の中にいることが多くなった猫にひっかかれたり、噛まれたりしてCSDの発生が増えると考えられています。
培養はヒツジ血液寒天培地には発育不良とされ、チョコレート寒天培地やウサギ血液寒天培地には発育するとされています。発育するといっても5%炭酸ガス培養で2~3週間と長期培養が必要とされています。また、本菌は赤血球内に感染しているため、溶血させた検体を培地に接種することで検出率が上がるともいわれています。
上の写真はチョコレート寒天培地(N社)に継代培養させ発育したBartonella henselae のコロニーです。5%炭酸ガス培養で7日目で微少なコロニーを形成しました。うーん・・小さくてよくわかりませんね。これは継代培養ですが、初代培養はチョコレート寒天培地にたった1コロニーのみ発育を認め、検出まで30日間要しました。ちなみに検査材料はリンパ節組織でした。同定は16S rRNA遺伝子解析にて決定していただきました。本菌はオキシダーゼ陰性、カタラーゼ陰性、糖分解をしないため生化学的性状による同定が困難であります。しかも極めて発育が遅いという微生物検査技師泣かせの菌です。

B. henselae のグラム染色所見 ×1,000 染色性の淡いグラム陰性桿菌で湾曲している

B. henselae のグラム染色所見 ×1,000 集塊状でみられる傾向がある
コロニーからグラム染色すると湾曲したグラム陰性桿菌として認められますが、その染色性はかなり淡いです。後染色にパイフェル液を使用していますが、こんなもんです。また、グラム染色では集塊状(GNR cluster)として見られる傾向が強いと感じたので追記しておきます。
そんな訳で、突然ですが・・手持ちの平板培地によるB. henselae 発育支持力選手権を開催しました(笑)。エントリーしたのはチョコレート寒天培地、ブルセラHK(RS)寒天培地とガードネレラ寒天培地です。では、選手紹介します。まずはチョコレート寒天培地です。スタンダードです。Bartonella の分離と言えば、まずチョコレートが思い浮かぶと思います。分離実績も一番あるのではないでしょうか?次にブルセラHK(RS)寒天培地です。これはヘミンを含み、ウサギ溶血血球、ヒツジ血液が含まれます。これは期待できます。最後にガードネレラ寒天培地です。これはなんと言ってもヒト赤血球が特徴です。でも抗菌薬も入ってます。ナリジクス酸、コリスチン、アンホテリシンB。・・コリスチン、ナリジクス酸・・お前たち・・大丈夫か?
いずれの培地も同条件の5%炭酸ガス培養で20日間まで観察しました。さぁ、結果はどうでしょうか?

チョコレート寒天培地(N社)で5%炭酸ガス培養、20日間

ブルセラHK(RS)(K社)で5%炭酸ガス培養、20日間
結果は・・期待していたブルセラHK(RS)での発育はチョコレート寒天培地と大差なしです。残念・・しかし、やってくれました。ガードネレラ寒天培地がスゴい、一番発育いいです。コロニー大きいですよね。これはっ!・・他の菌が混入している検査材料からBartonella の選択分離培地として使用できそうじゃないですかっ!!Nocardia がWYO寒天培地に発育するみたいなやつじゃないですかっ!!Bartonella は寒天培地表面に食い込み系のコロニーを形成しますが、その食い込み具合も培地によって異なるようです。ガードネレラ寒天培地ではガチガチに食い込みますが、ブルセラHK(RS)寒天培地はスィーと掻き取れます。菌株を保菌するときには良さそうです。ということで今回のBartonella 発育支持力選手権はガードネレラ寒天培地が優勝です。優勝といってもコロニーが多少大きいというくらいです。検出に長期培養が必要であることには変わりありません。うーん・・ネコ血液寒天培地が一番良いのかな?



